涼宮ハルヒの憂鬱 第12話「ライブアライブ」 ★×9、5

「他人」って一体何者なの?どうして私は彼らと共に存在しているの?ハルヒにとっての他人が一体何なのか、その解答編。
一番最初の頃のハルヒにとっての他人は障害物であったと思う。自分の考えとは食い違ったものを持ち、いちいち自分らしく何かやろうとする度に邪魔ばっかりしてくる、文字通り自分とは全く相容れない他の存在。
思うに、以前(第2話より前)のハルヒはどんなことでも一人でそつなくこなし、一人でどんなことでも成し遂げられてしまえるからこそ、共同作業によって得られる快楽ってモノを軽視してきたし、むしろ他人なんて足手まといくらいにしか思ってこなかった。故に、共同作業によってのみ得られる快楽に全く無縁に過ごしてきたのかもしれない。そんな風に想像している。
そう考えると、SOS団という「部活」と単位のコミュニティの場を作ろうとしたことも、全て一人でこなしてきたハルヒにとっては「複数人が共同で一つのことを行う」という、仰天のコペルニクス的転換にも近い発想として眼前に現れたのかもしれない。そう思うと、部活を作ればいいと思いついたとき授業中にもかかわらずあそこまで興奮を隠しきれない様子だったのは、なるほど納得がいく。
もっとさかのぼれば、「ただの人間には興味ありません…」のかの有名な自己紹介も、「自分一人で完結することをするだけでなく、他人に自分から働きかけることであるいは一人だけで得る達成感にはすでに満足しきれなくっている状況を打破できるかもしれない」という、彼女にとってはとても斬新なひらめきの言葉だったのかもしれない。


やや脱線したが、今回の話において、今まで自分主体の目的にしかやりがいを感じてきていなかったハルヒが、「他の誰かのため」に何かを共にやり遂げることで初めて芽生えた達成感があった。自分のためという小さな目的でなく、たくさんの人に向けた大きな目的に向けて、多くの人間を納得させる努力をするには、周りに謙虚になって、仲間を敬い尊重し、打算無しにただ精一杯やり遂げるだけのことが必要になる。どれも今までのハルヒには全く欠けていた経験である。それを「軽音部の代理」という経験を通して、初めて体感出来た。
そしてそれは同時に今まで自分の思うままの振る舞いを乱す存在と映っていた「他人」が、同じ目的を持った対等な「他人」として初めて出会う経験でもあった。自分主体の努力にしか楽しさは無いと思っていたハルヒが、今回の共同作業を通じ、本物の「他人」と出会うことでついに彼女の持っていた「他人像」が覆されてしまった。だからハルヒはそんな自分の中の変化に「動揺」している。
おそらくに今までは自己満足の世界を崩されるのが嫌だったから、都合の悪い他人とは関わる事を拒否してきたと思う。SOS団の人間はなんだかんだで皆ハルヒにとって「都合のいい」人間達だ。他人と摩擦が起きて、他人の心の中を垣間見る経験をすることで自分の世界がいかに都合よく改変されていたのかを思い知るのを避けてきたように思う。でも軽音部という「SOS団の外」の世界で、今までに無い共に成し遂げる喜びを知ったことで、ハルヒの世界は確かに「開けた」。
でも、ハルヒにとって一方的に感動を押し付けるのでなく、一緒に喜びを共有する経験は初めてだったので、そんなときどんな風に気持ちを表現したらいいのか分からなかった。だから軽音部の人とはキョンという理解者同伴で無いとどうやって関わればいいか分からないと思った。
そんな風に、新しい世界を開いたハルヒにとって、その気持ちはその場限りの刹那のものに留めるにはあまりに惜しいものとなる。ここが完璧主義のハルヒらしいところで、軽音部の演奏もちゃんと準備できなかったことを悔しく思うし、もっと完全なものを見せたかったと思う。それ以上にあの演奏はやっぱり「借り物」であって、一から築いた「自分のもの」と言えるものではなかった。だからハルヒは願う。来年こそはSOS団で、あの時感じた達成感以上のものを作り上げたいと。


「今自分は、何かをやってるっていう感じがした。」ぽつりと漏らしたハルヒのこの一言こそがこの涼宮ハルヒの憂鬱という作品のテーマではないかと私は思う。何かをやってるって思えるためには、自分の世界に閉じこもっていないで「他人」に出会わなくちゃいけない。そのことに気づけた『ライブアライブ』はアニメ涼宮ハルヒの実質的な最終回なのだろう。


ただ、一つ疑問が残る。今まで練習を積み重ねてきたのに、それが披露出来ない軽音部に「可哀想じゃない」と、同情を浮かべる気持ちがハルヒに芽生えていることだ。最初の頃のハルヒに他人の状況に感情を巡らせ、同情する力は無かったと私は思っているし、今までの話の中にそのように変化したことを示すエピソードは無かったように思う。
つまり、残り二話の「涼宮ハルヒの憂鬱Ⅴ・Ⅵ」にこそ、その変化が描かれているんじゃないのかなと、私は予想してます。今回がハルヒにとっての「終着点」的なエピソードだったと思っているけれど、その終着点を見つけられるようなハルヒになるまでの「気持ちの問題」が本編のラストスパートかなって、期待してます。