ARIA The ORIGINATION 第9話 ★×9

今週は真剣にARIAが何なのかについて考えてみました。

  • 夕焼けについて

今回のアリスのプリマ昇格エピソードは、原作の中でも飛びぬけてサプライズの強いお話です。初見の時に感じたのは、アリスがプリマになれたことへの嬉しさより、恐怖感でした。
具体的に、何が怖かったのかと言えば、漠然とした「終わる」ということが現実になったことに対してです。
「終わる」ということについて「夕焼け」の描写からアプローチしてみます。
夕焼けは暖かい気持ちになる、というのもあるでしょう。しかし、自分としては終末のイメージの方が大きい。夕暮れ時と言えば、子供達が遊び疲れ、家に帰る光景が浮かびます。夕焼けはそこに「楽しい一日の終わり」と同時に、「もう戻らない、何にでも楽しいと感じられた幼き日々」というイメージを感じてしまう。だから、夕焼けは綺麗なだけでなく、どこか不安にさせられたり、喪失感を伴う。
そのイメージは、今回の物語においても然り。卒業、プリマ昇格とあいまって、夕焼けの景色は「子供でいられた時間」との別れを意味していると思います。

  • ARIAの作品世界を支えるもの

以前にThe NATURALで話をしたのですが、ARIAの作品世界の根源を支えているのは「ノスタルジー」だと、自分は考えています。子供の頃はあんなことが楽しかった、あんな気持ちになれた、あんな風に世界が見えた。そういう、子供だから知っていたことを、くすんでいない灯里たちの目線を通して追体験しているのがARIAなのだと。
大抵の作品であれば、何かの目標に向かってそれを達成したのであれば、視聴者としても感慨があるはずです。しかし、ARIAに限ってはそれが何故、恐怖感に繋がったのかと言えば、目標の達成がARIAの根源を支える「ノスタルジー」の終わり、言い換えれば「変ってしまう」ことを宣告しているからだと考えています。
アリスがプリマになったら、もういっしょには練習できないのではないか。アリスが変わってしまうのではないか。そういった不安感が強くよぎる。今まで視聴者として見続けてきた「ARIAの世界」が全く違うものになってしまうのではないかと、不安になる訳です。
今までのARIAは変らない物語でした。いつまでも続く半人前の生活の中で、真新しい気持ちのままで、世界を新鮮な目で見つめ続ける。それが永遠に続く物語。そのように感じられて仕方がなかった。いつまでも止まった夕暮れ時の中で、あの頃の楽しい気持ちのまま無邪気でい続ける、それがアリスたちではないでしょうか。

  • 「アリス」について

アリスとは一体どんな女の子でしょうか。アリスと言えば、名前の由来は「不思議の国のアリス」からと考えるのが妥当でしょう。不思議の国のアリスにおけるアリスは、空想遊びが好きで、子供らしい感性と、子供相応の固執と屁理屈を持ち合わせています。
ARIAにおけるアリスの性格上の特徴にもこのことが言えます。「自分ルール」に代表されるような、14,5歳の女の子には似つかわしくない幼い挙動を持っており、8話にあったピクニックのごっこ遊びなどを見る限り、感性の点においては特に幼く感じられます。まだ、自分の気持ちの中にある箱庭の中で空想に耽って遊んでいたい。そんな夢ともうつつともつかない境界で戯れる少女に感じられます。その点で不思議の国のアリスとやはり同種の存在でしょう。
思うに、アリスはまだ「子供の世界」の中で生き続けている。いや、むしろアリスに象徴されるような、ARIAの世界そのものが「子供の世界」にあるんだと思います。灯里と藍華もこちら側の住人でしょう。

  • 「終わり」がもたらすもの

未だ、子供の世界で戯れるアリスが、今回の話において、ある日突然「今日から君は大人になってもいいよ」と宣言されました。
一体いつからが大人なのかという議論はよくされますが、少なくとも責任ある労働を負うことになったときから、「子供の時に当たり前に享受していた生活」は崩れ去ります。時間的な制約、責任を負うシビアさ、多数の価値観を受け止める必要性など。それらの要因のため、質的に違う「在りかた」が求められます。
でも世間で言う「学生気分」と、アリスの抱えている「幼さ」は明らかに違います。アリスはスキルや接客の点では、十分に労働に直結するだけの努力をしてきたでしょう。そうでなくて、アリスは前述のとおり、アリスを支える本質が「子供の世界」である、という点で、アリスが大人としての労働を今後求められることに危うさを感じてしまう。
ARIAは世界そのものが「子供の世界」の価値観、つまり「ノスタルジー」で構成されている。その点で、世界はアリスに対して優しいでしょう。しかし、それがORIGINATIONになり、世界そのものが「子供から大人へ」成長を迎えた。以前の感想にあるように、三期におけるテーマは「他人に一流と認められる人間になるには」だと思っています。そこで、自分達や身近な人間だけが満足すればいい、狭い生き方だけでなく、不特定多数の人間に貢献するという「大人の労働」が求められていると思います。その点において、アニメ一期、二期と三期では根本的に世界のありようが違う。
ORIGINATIONは、今までの郷愁を感じさせる世界を終わりにするための物語ではなかろうか。前8話を通して、ARIAの世界に内包する「子供の世界」への別れのための伏線を積み、作品世界とともに、その登場人物であるアリスも唐突に「子供の世界」への別れを告げた。ARIAという世界を支える大きな「見えざる世界の主」の成長の証として、登場人物も成長した。第9話はそのように解釈できるでしょう。

  • オレンジについて

ただこれから先、アリスはどうなってしまうのかを考えたとき、一つの答えは前から用意されていたりします。それはARIAのアニメ一期の「その オレンジの日々を…」です。
おそらく意図的だと思いますが、今回の話である「その オレンジの風につつまれて…」も同様に、「オレンジ」というワードを含んでいます。 やはりオレンジには「夕焼け=子供の世界の終わり」の意味を強く含んでいると思います。
「その オレンジの日々を…」は、三大妖精が昔を懐かしみながらお茶をし、それでも「今だってまんざらでは無い」と思い至る話です。この話を観ると、きっとアリスたちもいつか笑いながら、今日別れを告げた「子供の世界」について談笑できるときが来るのだな、と思えます。