シゴフミ 第10話 ★×8

シゴフミでまさか涙するとは思わなかった。この回の出来だけ突き抜けすぎだろ。
確かに末期ガンや交通事故なんていつもどおりの三流ドラマな訳ですが、それ補って余るほど「何か成し遂げた」人間の生涯の物語として完成されている。
オタクで絵を描くのが好きで、ゲームデザイナーになれたなんて、とっても勝ち組だと思うのですが、そんなに風当たり冷たいものなんでしょうか?それはともかくとして、世間や家族からはいい目で見てもらえない。そういった、いわゆる無言の圧力のせいで、自分がやってきたことに自信が持てなくなってしまっている。
「世間並みの在りかた」というやつから外れたところで、どうやって自分の価値を見出せばいいのか。そんなことを考え、つまずいてしまった30歳が、子供の無邪気に喜ぶ姿から、人に喜んでもらいたいという、自分の起源を見つける。そんなストーリーは、なんだか照れくさいけど、すごくいいと思う。
これもありがちな話と言えばそうだけど、無言の圧力とかの、見えない評価におびえて自分のやっていることを過小評価してしまうっていのは、十分にありうることだと思います。
けど、今までやってきたことが「どう相手を幸せに出来たのか」を自分の目で知って、そして自分の仕事の意味を見出せる。そんな瞬間が、死ぬまでに一回でも訪れたなら、すごく充実した人生だろうなって思える訳ですよ。世間並みに合わせているだけでは得られない瞬間。そんな、仕事をする人間の「待ち望んだ一瞬」が、「一人の人間の死の刹那」を通すことによって、まさに「待ち望んだ一瞬」としてくっきりと表現されている。その「一瞬性」を表現するためには、やはり「死」程適した表現はなかったと思う。「死」を用いることで、今までの人生全てが報われ、肯定される「瞬間」としての、子供の笑顔が最大限に引き立つ。


それとは別に、特に男の、小学生くらいからゲームを発売するに至るまでの回想シーンはぐっときたな。男が自分の「好き」を少しずつ大切に育てながら、学校生活の中で、自分の絵が劣っていることを自覚させながらも、それでもやめてしまうことなく、友人とゲームを作る。そしてそのゲームが実際に評価されるまでにも、企画は否定され、自分の満足できる仕事も出来ず、それでも一つのゲームを発売した。
その回想の内に、色んなことを考えてしまう。世間体をやたら気にする両親にはどんな風に言われていたのか、ゲームデザイナーになることに不安はなかったのか、そんな人生の辛い局面を乗り越えてついに作りあげたものが、目の前の一人の少女の手に渡ったこと。こういう諸々が少し長めの回想シーンでは思い浮かび、おもわずほろりとしてしまいました。人間が、何かひとつのことを成し遂げるって言うのは、その人の人生の軌跡そのものだと、そう思わせる力のある映像でした。
もう一つこれとは別に、ごく個人的に、葬儀の場面はほろりときた。というのも、いっしょにゲームを作ってきた友人が棺を前に泣いていたのが、どうも。ああいう生々しい葬儀風景を見ると、高校の友人の葬儀を思い出して駄目ですね。死を、ごく日本式のありきたりな葬式の風景で表現すると言うのは、アニメではありそうで、そう多くは無い。でも、死を描く上では、誰しもが一度くらいは葬式に出席したことがある点で、葬儀の風景は結構なリアリティを伴う。


総じて、今回はシナリオ・テーマ性の点でもずばぬけて良いものを選んでいるし、表現面でも感情を揺さぶるような場面が多く見受けられ、極めて良作だと思います。