ツバサ・クロニクル 第5話「少年のケツイ」 ★×8

これはアニメとして面白いかどうかでなく、そのあたかも文学的命題の如き経験がそこに描かれていたことに興奮を覚えた、というのが正しい言い方かな。
新たなセカイにたどり着いた所には主人公(小狼)の父親と同じ名と、同じ魂を持つ、別の人間がそこにいた。しかし彼は父親とは違い、自分よりも一回り小さい少年だった訳ですよ。その少年は見た目だけでなく、一つの物事に打ち込み、その経験を他者に分け与えようとする点において、やはり魂を共有する存在であった。小狼はその少年、藤隆との「父と子」の関係性を拭い切れないが、一対一の対等な友人として振舞うように努める。
と、ここまででなにやら私の中のインスピレーションを非常に刺激してやまない題材の宝庫といいましょうか、これを題材に小説一編書けそうなほどですよ。子供の頃の父親でなく、父と魂を共有した、父親ではない少年というところがミソでしょうか。単に父親の過去から、尊敬すべき父親の認識を再構築していくというありきたりなテーマに帰着することなく、全くの他人としての「父親」が自分よりも目下の存在として現れた時、否が応でも愛着や主観のこもった「父親」としては映らず、絶対的他者としての「父親」の再認識のプロセスこそがテーマに据えられている点が、なんとも私には文学的に感じられたのですが。ある意味、反抗期を経て、庇護下におかれていた親子関係を、人格と人格の関係として捉えなおす思春期の心と重なる部分もあり、実際的な成長物語としても興味深い題目。
そんな風に思いながら観てた訳ですから、小狼と藤隆少年が夢を語り合う場面や、藤隆少年に向かって「敬語は、やめませんか?」と言ったり、小狼が昔してもらったように、藤隆少年に知識を教えとく、どの場面一つ取ったって鳥肌立ちまくりだっつーの。意味から意味が紡ぎ出されていくとでも言うのでしょうか、その行為の持つ行間の意味一つ一つに、かっ、感動した!!
最後の別れ際、藤隆少年は小狼から新しい夢を与えられ、小狼は「父さん」と一言つぶやくシーンなんて感動の絶頂って感じや!!久しぶりに少年に向けた冒険小説を一冊読み終えたような情感と爽やかさと後に残るものをじんみりと感じた話だった。これはスゴい。