ヱヴァンゲリヲン新劇場版を見て、12年越しの新しいテーマについて

12年を経て、ヱヴァンゲリヲン新劇場版(以後新エヴァ)では大なり小なり変化した点は見受けられたが、最も大きな変化だと感じられたのは「エヴァに乗る意味の変化」であろう。新劇場版のテーマは「ヒトを好きになるということ」だそうだが、「序」からこれを強く感じさせてくれる作りになっていた。


目に見える変化として、シンジが家出をしてから連れ戻されるまで、そして再びエヴァに乗るまでの間の大幅カットが挙げられる。1995年のエヴァ(以下旧エヴァ)では、この一件を経て、「自分が人に求められていて、自分の居場所はある」のだと、一応の満足感を得る。そして、それ以後のエヴァに乗る理由の大きな部分を占める。
しかし、その場面がカットされたことにより、ネルフに残る理由が「皆から求められている」からでなく、新エヴァでの言葉のとおり「父親がいる」からに変えられる。つまり、ゲンドウからの自分を認める言葉を待つために残るのであって、この時点ではシンジの心は満たされていない。
もう一つの大幅な変化として、ラミエルに敗退後、エヴァに乗ろうとしないシンジが、ミサトに連れられていく場面が挙げられる。この場面は特に重要で、旧エヴァのような「エヴァパイロットの孤独な戦い」から、新エヴァの「ネルフ全体の戦い」へと、戦闘の意味合いの書き換えが行われている。
加えて、学友のメッセージを受け、二度目のラミエルとの戦闘の最中、「何故エヴァに乗るのか?」という問いの答えを「父親に認めてもらうため」というものから、「命を懸けている人々、自分を認めてくれる友を守るため」へと昇華させた。これは、新エヴァにおけるシンジの満足感の欠如のスキマに加え、守るべき存在を自覚するような、上記二つのシナリオの変更ゆえに達成されたものであろう。


エヴァでは、自尊心や依存心といったものが、シンジをエヴァに乗らせる動機となっていた。対して、以前は積極的に描かれることの無かった「皆を守りたい」という点に、新エヴァにおけるシンジのエヴァに乗る理由の重きが置かれている。
言わば、旧エヴァは「自分がこう思われたい」という、自分への見返りを求めた、他者との間に巡る「自分についての物語」であった。承認されるための物語であった。
しかし、新エヴァにおいては「自分がやるべきこと」を成す事で「人を守った」という満足感を自身で生み出す術を得たように思う。集団という存在の中で自分の位置を見つけ出す「集団についての物語」に生まれ変わったと言えよう。


この変化をもって、エヴァは確実に「進歩した」と言える。エヴァが12年の時を経て「進歩した」と言えるのは、エヴァの描くテーマを従来の「アイデンティティー」の問題から、「親密性」の問題へと発展させた点にある。ここで言う「アイデンティティー・親密性」と言うのは、精神分析家であるエリクソンの人間成長の8段階のことである。成長の8段階についてはhttp://starpalatinatheworld.hp.infoseek.co.jp/life_cycle.htmlが詳しい。

以前のエヴァで描かれてきたテーマは「自分の居場所はどこだろう」「自分は何のためにここにいるのだろう」ということである。その答えを得るために、他者からの承認を求めてやまない子供達の、「他人から受け取る」物語。同時に、承認によって自らのアイデンティティーを確立せんと試みる14歳の物語であった。
しかし、自分を歓迎してくれるミサトや学友達の存在に心を満たし終わるのでなく、他者から承認されることを越えて、自発的な意思により、自分が他者のためにできることをしたいと願う物語へと変化している。つまり、エリクソンのいうところの「親密性」の問題に取り組む姿勢でもある。一方的に承認を待つだけの「依存心」を捨て、集団の中で自分が出来る役割を見つけることが、ラミエルを前に再びエヴァに乗ることでもある。12年を経て「他人に与える」物語へと成長したことだと言える。そして、これは成人期にある者の取り組む問題のための物語でもある。

あの頃「思春期・青年期」にあったエヴァファン達が「成人期」を迎え、新エヴァは新たに取り組むべきテーマ、向かい合うべきものとして「親密性」を設定した。「他者との中における自分の役割、それを決定する意思を育む」という、より上位のテーマに昇華し、「12年という時間が示すとおりの新劇場版になった」と言えるのではなかろうか。
エヴァが「14歳問題」を提示して以後、数多のロボットアニメが同じテーマを繰り返したが、その先にある問題を示さないままにしておいた。その新たな問題をエヴァ自身で刷新したこととなる。



余談ではあるが、他者の存在を手段から目的に変えて、「守るべき皆のため」に戦うシンジの姿への変化は、旧エヴァ以前のロボットアニメの典型的な主人公像に通ずるものがある。そこには、旧エヴァをきっかけに分裂した、旧エヴァ以前の「熱血系」と、旧エヴァ以後の「セカイ系」のロボットアニメの系譜を、新エヴァによって再び一つのものに融和しようという目論見が窺えなくもない。